大堰川 千鳥ヶ淵 横笛を思う

 大堰川(桂川)の南岸

渡月橋から上流の大堰川(おおいがわ)南岸には、あまり有名な観光場所はないのですが、もみじの季節はとてもきれいです。上流へさかのぼっていくと一番終点には大悲閣(千光寺)というお寺がありますが、その手前の「千鳥ヶ淵」に行きました。

千鳥ヶ淵は、昔、建礼門院(平 徳子:たいら の とくし、平清盛の娘で高倉天皇の中宮)の侍女・横笛(よこぶえ)が滝口入道(たきぐちにゅうどう:斎藤時頼)を慕って嵯峨まで尋ねたのですが、入道はすでに出家した後で、面会しなかった彼を恨んで、横笛が身を投げた所だといわれています。

「滝口入道」は、高山樗牛(たかやま ちょぎゅう)が明治27年(1894年)に書いた小説の題名です。

酒宴の席で舞を踊った建礼門院の侍女である「横笛」の美しさに、斎藤時頼は心奪われ恋文をしたためます。あまたの男性から求愛される横笛ですが、時頼の愛情あふれる恋文に心を打たれ、恋い慕うようになります。しかし、時頼の父、斎藤茂頼は身分の差が大きいとして、この結婚を認めません。時頼は失意のうちに出家して、嵯峨の往生(現:滝口寺)に滝口入道として入ります。

あきらめきれない横笛は、嵯峨野界隈を捜し歩き、やっと滝口寺にたどり着き取次を求めますが、入道は「会うは修行の妨げなり」と涙しながら会わずに帰したといわれます。横笛は都へ帰る途中、自分の気持ちを伝えたく、近くの石に

「山深み 思い入りぬる柴の戸の まことの道に我を導け」

と指を斬って、その血で書き記しました。入道は、これからも横笛に尋ねてこられては修行の妨げとなると、女人禁制の高野山静浄院へ居を移してしまいます。それを知った横笛は、悲しみのあまり病に伏せて亡くなりました。

物語の中では、病で亡くなったとなっていますが、実際は悲しみのあまり、千鳥ヶ淵で大堰川に身を投げたということです。

横笛といい、高倉天皇の寵愛を受けて平清盛の逆鱗に触れた小督局(こごうのつぼね)といい、平安時代はロマンスに事欠かない時代だったんですね。

渡月橋界隈

いつものごとく、JR嵯峨嵐山駅から行きました。

大堰川千鳥ヶ淵 No2

渡月小橋を渡って右折します。

大堰川千鳥ヶ淵 No3

渡月小橋の全景です。真ん中の空中に”ゴミ”かと思えば木の枝ですね。失礼しました。

大堰川千鳥ヶ淵 No4

渡月小橋のすぐ横は船の乗船場になってます。

大堰川千鳥ヶ淵 No5

右折してしばらくは、きれいな石畳が続きます。

大堰川千鳥ヶ淵 No6

小督局のところで書きました「駒留橋」です。昔の駒留橋とは違う橋なんでしょうけど、同じ名前を使っています。

大堰川千鳥ヶ淵 No7

少し上流に歩いて渡月橋を見ると、比叡山に雲がかかってます。葛野大堰によってせき止められた水面が静かに景色を映しています。

大堰川千鳥ヶ淵 No8

「櫟谷宗像神社」があります。岩田山のモンキーパークの入り口でもあります。「櫟谷宗像神社」については、また別の時に書きます。

大堰川千鳥ヶ淵 No9

対岸には屋形船。

大堰川千鳥ヶ淵 No10

その後ろには小倉山などが見えます。観光の方は、向こう岸から、こちらの「嵐山」を見ることが多いようですが、こちらから見た小倉山や、嵐山公園もきれいです。

大堰川千鳥ヶ淵 No11

渡月橋が一段と遠くなりました。

大堰川千鳥ヶ淵 No12

で、急に現れた「蔵王大権現」です。鳥居の下に道があるので少し登ってみましたが、何もありません。やまの頂上の方にはお社があるようですが、一般人は入れないようです。また、ここから登るのではなく、もっと南側からアプローチするようです。

大堰川千鳥ヶ淵 No13

11月の第2日曜日に行われる「嵐山もみじ祭」ではこの蔵王大権現に感謝し、大堰川に船を浮かべて、船の上に設けた舞台で古典芸能などを披露し、また川岸でもいろいろな芸能などを披露します。

大堰川千鳥ヶ淵 No14

さて、どんどんと上流へ歩きましょう。

地図には載っていない千鳥ヶ淵

実は、「戸無瀬の滝」を見てみたかったのですが、下から見ると、コンクリートの防壁のようなものが見えて、なんとも風情のない景色になっているのでがっかりしました。(反対側の棋士の嵐山公園からは見えます。)多分防壁のまだ上側に三連の滝があるのでしょうが、国有林で一般人は立ち入りが禁止されているので、上りませんでした。

大堰川千鳥ヶ淵 No15

船着き場があったので、降りてみました。けっこう深そうで、濃い緑色の川面です。お抹茶のようです。

大堰川千鳥ヶ淵 No16

川沿いの道は所々で、岸へ下りられるほどひくくなります。

大堰川千鳥ヶ淵 No18

この辺りには「琴」の付く名称や地名が多いです。小督局の「琴」にちなんで付けられているのでしょう。

大堰川千鳥ヶ淵 No17

はっきりとはわかりませんが、この辺が「千鳥ヶ淵」だと思われます。地図にも載ってないし、駒札なんかも全然ありません。横笛のために静かに手を合わせます。

大堰川千鳥ヶ淵 No19

岸に近いところは川底が見えてますが、すぐに深くなっているようです。

大堰川千鳥ヶ淵 No20

今日は静かな流れで、水面がきれいです。静寂の中で、水だけが静かに移動するように流れています。

大堰川千鳥ヶ淵 No21

反対岸の上の方に、嵐山公園亀山地区の展望台があります。いつもはあそこから大悲閣なんかを見ています。

このまま、大悲閣まで行ってもいいのですが、今度の楽しみにして、今日は戻ります。

大堰川千鳥ヶ淵 No22

渡月橋の近くまで戻ってきました。一段と明るくなって、景色がはっきりとしてきました。

大きな見どころはないのですが、大堰川の静かな川の流れと嵐山渓谷の景色が楽しめ、それでいて観光客が少ないという絶好の散策道です。横笛のいちずな心を思いながら、ゆっくりと歩いてみてください。

アクセス

  • 京都市バス「嵐山公園」下車、徒歩3分
  • 京都バス「中の島公園」下車、すぐ
  • 阪急電鉄嵐山線「嵐山」下車、徒歩10分

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